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一通の手紙より

第二アリアンサ日本語学校 宇山慎二

 ある日、私の中学生時代の恩師から一通のメールが届きました。その手紙には、日本の中学生に「アジアで働く子供たち」という単元を通して、アジアの一員としての日本のあり方について、子供たちに考えさせたい。そのために、海外から見て日本をどの様に感じているかを教えてほしいと書かれていました。私はどんなことを書いたらいいのか悩みましたが、今、率直に思っていることを書いて送りました。そして何日か経ち、今度はその授業を受けた子供から次のようなメールが届きました。

子供達の目

 アジアの子供たちの中には、朝早くから夜遅くまで生活するために頑張って働いている人もいるから、そういう子供たちから見て、日本は裕福とか幸せとか見えるかもしれないです。でも、日本は今、幼児虐待とか少年が母親を殺したとかっていう事件も起こっているのです。本当に日本の子供は幸せなのだろうかということについて考えてみたいのです。
 この手紙を受け、第二アリアンサで日本語を勉強している子供たちに尋ねてみました。
 まず最初に「日本ってどんな国だと思う?」と尋ねると、子供たちは次のように答えました。

・日本の人はみんなお金持ち。出稼ぎに行った人はみんなお金をたくさん稼いでくるから。
・テレビなどで見るととっても綺麗で、美しい国。
・欲しいものは何でもそろう。いろいろなものを売っている。
中でも、お金のある国という答えが圧倒的でした。

働くアリアンサの子ども  今、ブラジルでは農業で食べていくことが非常に難しい状態にあります。
「何をやっても儲からない」とみなさんは口々に言われます。そうした背景もあり、町からは若者が次々に日本へ出稼ぎに行っています。出稼ぎという言葉がブラジル語にもなっているほどです。そして、ブラジルでは何年もかかって稼ぐようなお金を二、三年の内に稼いで帰られる様子を見て、子供たちの中には、日本はお金を儲けられる国と考えているのだと思います。しかし、出稼ぎで日本に行っておられたアリアンサの青年たちから「日本は厳しい国だ。」と言うことも聞いています。その厳しさとは一つは労働の厳しさであり、もう一つは差別の厳しさだそうです。そのことについてはまたの機会に書きたいと思います。

 次に「日本の子供たちは幸せだと思う?」と尋ねてみました。
 しかし、その答えは予想に反して、「日本の子供は大変だと思う」という答えがほとんどでした。
 ある子供になぜそう思うのかと尋ねると「日本の子供はいっぱい大人から期待されて、いっぱい勉強もしなくてはいけないから」と答えました。それに「窮屈そうだ」とも言っていました。
 この答えに私はびっくりしました。でも考えてみると、その答えは当たっているのかもしれません。日本にいると、子供たちに幸せになって欲しいという親の願いが、良い学校に入って欲しい、良い仕事について欲しいという願いと重なり、夜遅くまで塾で勉強したり、受験に親が必死になるという姿は当然のように見ることができます。でも、それを他の国のこどもたちが知ったとき、それは不思議なことに見えるのでしょう。

 最後に「ブラジルと日本のどっちにすみたい?どっちが幸せ?」と尋ねてみました。
 子供たちは間髪入れず「ブラジル」と答えました。それはなぜかと問うと「だってブラジルには、私のおじいちゃんやおばあちゃん、お父さんお母さんがいるもの」とニコッとして答えてくれました。この答えを聞いて、私はすごくすっきりした気持ちになりました。

幸せの定義

 「幸せ」という定義はとても難しいものです。日本の子供たちから見ると、朝から夜まで働くアジアの子供たちの姿は、「かわいそう」と捉えるのかもしれません。そしてそんな苦労のない日本の子供の方が「幸せ」と考えているのかもしれません。
 実際私もそう思うこともあります。しかし、本当の幸せというのは、物的に満たされていることや金銭的に余裕のあることではないということを、この答えは教えてくれたように思います。
 仕事に追われるこどもたちが幸せではないかと言うと、決してそんなことはないのです。
 日本では両親が忙しく、子供が一人で夕飯を食べることも少なくありません。そのため子供に寂しい思いをさせていることを考え、親はお金を子供に与えたり、物を買い与えることが多いのではないでしょうか。確かに日本の子供はブラジルの子供たちよりも物的には恵まれていると思います。でも本当の子供の幸せはどこにあるのでしょうか。「家族がいるから」と言った子供の言葉にすべてその答えが集約されているように思います。「相田みつを」さんの詩集の中に「幸せはあなたの心が決める」という詩があります。この詩の解釈はいろいろありますが、物の豊かさだけが人間の幸せではないと言うことを言っているのかもしれません。
 今回この日本の子供の手紙から、いろいろなことを考えさせられました。そしてアリアンサの子供達から、大切なことを教わったような気がします。すべての人間は幸せになるために生まれてきているのだと私は思います。
そして今、「幸せ」とは何なのかをしっかり考えていく事が必要だと感じています。


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